地味OLはシンデレラ
「部長、どういうことですか?私、社長に電話して極秘にするように言ったんですけど」

私は力なく、消え入るようなか細い声しか出ない。
注目を浴びていることはわかっているけど、私にはもう篠宮部長しか視界に入らない。

「栗原、今朝玄関に鍵忘れていったぞ」
部長は私の手を取り、手のひらに鍵を置いた。

名字で呼んだなぁとか、キスのせいで鍵忘れたなぁとか、一瞬冷静に思った。

部長の一言は、みんなのボルテージを更に上げてしまった。
まだ始業前とはいえ、このままでは仕事になりそうにない。
部長に聞きたいことが山ほどあったけれど、諦めて自分の席に戻ろうとした。
その時、部長の大きな声がフロアに響いた。

「俺と栗原は結婚を前提につき合ってる。近いうちに結婚する予定だ。いろいろと気を遣わせることがあるかもしれない。だが、仕事の面で公私混同はしない。今後ともよろしく頼む」

鬼部長がみんなに頭を下げた。
あの鬼部長が。
仕事で頭を下げたところなんて、一度も見たことない。

部長の本気の気持ちが伝わってきて、胸が熱くなった。
みんなにバレたこととか、部長に聞きたいこととか、全てどうでもいいやって思ってしまう。

私はみんなに向かって、深くお辞儀した。




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