地味OLはシンデレラ
メイク室に入ると、スタイリストさんとメイクさんがキラキラした目で、私の頭から足の先までまじまじと見る。

黒のフレアスカート、ベージュのジャケット、白のブラウス、黒のパンプス。
地味子である私の、いつも通りの仕事服。

「やりがいがありそうだわ~!」
「久しぶりに燃えますね!」
きゃあきゃあ大騒ぎしてる。
変なスイッチ押しちゃったかな。

「お手柔らかにお願いします」
私は苦笑いを浮かべ、ジャケットを脱いだ。


大きな鏡の前に座り、まずは髪型をハーフアップ、毛先はコテでくるくるにされる。
顔には化粧水を含ませたコットンをペタペタ貼っていく。
同時に両手の爪に薄いピンク色のマニキュアを塗っていく。
メイクも全て終わり、耳にパールのイヤリングを付ける。

一着目のパーティードレスを身にまとい、ヒール高めのパンプスを履く。

鏡には魔法にかけられた地味子が映っている。
スタイリストさんとメイクさんは満足そうだ。
「シンデレラをテーマにしてみたの!」
「スタジオに行って、みんなを驚かせましょう!」

メイク室を出て、螺旋階段を降りていく。
履き慣れないパンプスのせいで、手すりに掴まり、ゆっくりと降りていく。
階段の下で、篠宮部長は腕を組んで、佐野主任は口をポカーンと開けて、私を見ている。

「えっと、どちら様ですか?」
佐野主任は何度も瞬きをして、そう言った。
「栗原ですけど。佐野主任、大丈夫ですか?」
「栗原さん!?」
佐野主任は驚いて、一歩後ずさった。

「やっぱり眼鏡外すと、雰囲気変わるなぁ」
篠宮部長は真剣な顔で観察している。
そんなに見ないでほしいんだけどなぁ。
元々地味子なんだから、こんな格好が似合ってないことくらい、よーくわかってる。
篠宮部長に見られると、恥ずかしくていたたまれなくなる。
心臓に悪いんですけど!

「佐野!今日のことは極秘事項だからな。モデルが栗原だってことは公にはしない。それが社長命令だ」
「部長~。わかってますよ~。それにしても、こんな栗原さん、男はほっとかないでしょうね~」
「佐野!カメラマンさんを呼んでこい!撮影始めるぞ!」
「はいはい。ちなみに僕、彼女いるんでご心配なく~」

「着せ替え人形のつもりでいるんで、私のことはご心配なく」
主役は商品であるパーティードレス。
モデルって大変だな~ってしみじみ思う。




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