地味OLはシンデレラ
最初は表情が固かった私も、3着目くらいから徐々に慣れてきて、最後の10着目で全ての撮影が終わった。
「お疲れ様でした!」
時計は17時を指している。

「はぁ~。疲れた~」
メイク室に戻り、服を着替えようとしていると、
「この服あげる」
スタイリストさんがハンガーに掛かったワンピースを私に渡す。
「今日頑張ったご褒美。せっかくだから、髪型もメイクもそのままにして、ワンピース着て帰って~」
「いや、でも…」
「いいから、いいから」
押しきられる形で、私は似合ってないであろう格好で会社に戻ることにした。

「今日は直帰でいいから、これで解散だ」
篠宮部長は有り難い言葉を言ってくれた。
こんな格好で会社に戻ったら、みんなに引かれるのが目に見えてる。

佐野主任は彼女さんとデートらしく、テキパキと片付けしてる。
「じゃあ、お疲れ様でした」
私はコンタクトレンズを外し、眼鏡をかけて、荷物を持って帰ることにした。

スタジオの外に出たところで、篠宮部長に声をかけられた。
「栗原!このあと予定あるか?」
「いいえ。なにもありません。家に帰ります」
地味子は寄り道もせず、家に帰るだけ。
「今日頑張ったご褒美に晩飯奢ってやる」
そう言って、私を車に押し込んだ。

車は最高級ホテルのエントランスに入って停まった。
ドアマンが助手席を開けてくれる。

「今日は一日シンデレラの気分ですよ」

篠宮部長の後ろについて歩く。
ホテルの3階にある和食のお店に入る。
着物姿の女性が「篠宮様、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」と、個室の部屋へ案内してくれた。
っていうか、予約してたんですか?

メニューを見ても、さっぱりわからないので、注文は篠宮部長にお任せした。
「料理長おすすめのコースで」
またお高そうなコースで。
篠宮部長は普段からこんなところで食べてるんだろうか。

次々と料理が運ばれてくる。
お腹が空いていた私は、美味しい料理に舌鼓し、全てきれいに完食した。
「奢りがいがあるな」
なぜか篠宮部長は嬉しそうだ。
苦手な上司とふたりでのご飯は意外と楽しかった。
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