ハライメ〜悪喰の大蛇〜

「ヒナ、こんな湿っぽい所にいたら明日になる前に気が滅入ってきちゃうわよ。それにここ、ちょっと寒いし。風邪ひいたら大変」

「うん……わかってるけど……」

日菜子は歯切れ悪く言うと、少しだけうつむいた。



日菜子は私の一歳年下の従姉妹だ。

私も日菜子も母の顔を知らず、祖母と私の父の手でここまで育ててもらった。

幼い頃からずっと同じ家で一緒に育ってきた私たちは、姉妹も同然の関係だ。


とはいえ、似ている部分はあまりない。

小柄で大人しく、いつでも控えめな態度の日菜子と比べて、
私は言いたい事は言ってしまうタイプだし、悩むより行動してしまう性分だから、正反対といっていいかもしれない。



私たちの暮らす矢鳥家は、明式神社の氏子総代の家に当たる。

総代といっても、ふだんは大したことをするわけじゃない。

そもそも氏子自体が少ないから持ちつ持たれつで神社関連のことはこなしているし、
他の氏子と違うところといえば、寄り合いのときにうちが会場になるくらいの事だろう。

だけどある行事のときにだけ、矢鳥家は氏子総代として面倒な役割を担うことになっていた。
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