麗しき日々
 書類の入った封筒を手に、副社長室の前で立ち止まった。

 大きく息を吸うと、覚悟を決めドアをノックした。


「はい」

 と、ドアの向こうの声にノブを回した。


 副社長の机の前には、男性社員の後姿がある。

 チラリと見えた、副社長は何やら厳しい顔で、冷静に何やら難しそうな話をしていた。


 ドアの側まで歩み寄ってきた栗林さんに、書類を渡し戻ろうと思ったのだが……


「ありがとうございます。申し訳ありませんが、少しだけ廊下で待っていていただけますか……」


「あっ…… はい」

 もちろん従うしかない私は、返事をしてはみたが、別に直接渡すほどの書類では無いし、納得いかないまま、廊下の隅にある長椅子に腰を下ろした。


 しばらくすると 副社長室のドアが開き、先ほど話をしていた社員と栗林さんが出てきた。


 栗林さんは私の顔を見ると「お待たせしました」と涼しい笑顔で副社長室の方へ手の平を差し出し、社員と話をしながら行ってしまった。


 仕方なく、副社長室のドアをノックした。


「はい」

 と返事が返ってくる。


 ドアノブを回すと、窓際に立っていた副社長がクルリと振り向いた。

 背が高く、整った顔が窓の反射と共に眩しくて、胸がドキっと音を立てた。


 冷静にと、自分に言いきかせ副社長の元へと向かった。


「ご依頼されていた書類お持ちしました」


 私はペコリと頭を下げ、デスクの上に置くとクルリと向きを変え、ドアへと向かって歩き出した。


「なぁ…… もう、行くのか?」


 副社長の言葉とは思えない、まるで、友人にでも話しているような口調だ……


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