野獣は甘噛みで跡を残す
「………そうね。蒲田がずっと同窓会に来いってしつこかったから、一度だけ顔出しとけば大人しくなると思って行ったんだけど、まさか委員長のお世話することになるとは思わなかったわ」

「そ、それは………」

 痛いところを突かれ返す言葉も見付からなくなった私が視線を逸らしたら、バツが悪そうに呟く声が鼓膜に触れ、釣られて正面を見直す。

「冗談よ。アンタが意地悪なこと言うから仕返ししただけ」

 まるで悪戯がバレてしまった子供みたいに小さな声で言う白石君。

 あの白石君の口から「意地悪」なんて言葉を聞くと新鮮だ。

 それにちょっと可愛いと思ってしまったことは、胸の奥にしまい込む。

「そ、そうだ、ペンネームって、何て言うの?」

 わざとらしく明るい声を出したものだから、途端にジト目を返されてしまった。

 社交辞令だと思われたのかもしれない。

「実は私、漫画が好きでよく読んでるの。もしかしたら白石君の漫画も読んでるかもしれないし、気になるな、と、思って………」

 気持ちを計るみたいにじぃっと凝視され、本心だけど語尾が次第に消えていく。

 すると不意に視線を逸らした白石君が窓の方を見やり、暫く何かを思案しているように黙っている横顔を見つめていて、私はひとり懐かしい気持ちになった。

 教室でもよく見かけたな。

 そうやって、窓際の席で頬杖を付いてよく外を見ていた。

 私がノスタルジックに浸っている間、白石君はずっと、窓から見える澄んだ青空を見つめており、そしてふと、何かを呟いた。 
  
「え?」

「………気分はマシになった?」

「う、うん。ドリンクが効いたみたい」

「そう」

 話を逸らされてしまった。
   
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