【完】V.I.P〜今宵、貴方だけの私になる〜

「…先程から、なんなんですか?」


キッと睨まれるのは、心外だけれど、嫌な気分ではなく寧ろ楽しい。


「あぁ、いや。なんでもないさ。…なぁ、綾小路?」

「なんですか?」

「…暇か?」

「…は?…この書類の山を見て言ってます?」


最近になって、漸く崩れていた彼女の口調。
まだまだ序の口だけれど、それでも嬉しい。


「そうじゃなくて。今夜、空いてるかって、話」

「…嫌です。無理です」

「…何が?」

「要人社長に誘われたら妊娠するって専らのウワサですからね。そんなの私、嫌です」


つんつんと、素っ気ない態度を取る癖に、淹れてくるコーヒーにはたっぷりと愛情が詰まってるんじゃないかと勘違い出来るほど…いつだって美味い。


思わず握り締めたくなるくらいに細くて綺麗な指が、コーヒーカップを掴んで俺のデスクの上に置かれることを、俺は密かに恍惚的な想いで見つめている。


何度も…それは、幾度となく。


「くすくす。なんだ、それ。そんなウワサを信じるタマかね?お前さんが?」


心の底から楽しげにそう言うと、彼女の眉間にきゅーっとシワが寄っていく。
それが、彼女が俺だけに出す素ならいい…そう思っている…。


「失礼、ですね」



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