(仮)ハルトとアルト
ここシュバルツに滞在するフィリップによく異国の話や医療の違い、そして彼の愛する家族の話を聞いていた

彼が大切に持っていた、セピアの家族写真にはフィリップの妻である美しい女性と、とても愛らしい娘のリーナが写っていた
きっと、この愛らしい少女が写真に写る彼女の母に似るのだろうと思った
そして、リーナの話をフィリップから聞くたびに益々写真の少女に興味が湧いた
まだ幼き日の彼女は看護師の母みたいになりたいと、ありとあらゆるものに包帯を巻いた話
人に優しいだけでなく、動物や植物にも優しく、怪我をした猫を連れて帰り看病したり、花の茎が折れかけていたら包帯を巻いてあげていたとか、、、ネペンテスの恐怖政治ゆえ民に、国に活気がない話を聞いて、国が元気になる薬をリーナが作ると言い可愛らしい研究(ごっこ)をしていたこと、、、
こんなにも優しく慈悲に溢れた人がいるものかと、軽いショックを受けながらも、まだ見ぬ彼女に恋していた

時が経ち、そんな彼女の噂が私の耳にまで届いた
どうやら、思っていた通り彼女は美しく成長し、その姿表情からオデット姫のようだと、白鳥姫と言われる程であった。そしてネペンテスの名により姫としてさまざまな教養を身につけ素晴らしい姫に育ち、その噂は社交界で耳にするようになった。そんな彼女を社交界は今か今かと待ちわびていたのだが、遂に今年、社交界にデビューすると聞いた

居ても立っても居られなかった。
そんなに噂を呼ぶリーナ姫を社交界の場で見るなんて私には耐えられない
まだ見ぬ片思いの相手に誰よりも早く会いたいと思った

ちょうどフィリップの妻娘奪還の計画にも都合がいいとアルトが戦略を練り、交換条件のような形で社交界デビューの前に我が国にリーナ姫を招待することを決めた

私はシュバルツ王国第一王子ではあるが、実は父は双子の私達に平等に、そしてその時の状況に応じて判断すればいいと王位継承権に順序を付けていないのだ
だが、ここだけはいくらアルト相手でも譲れなかった。それは、リーナ姫の婚約相手として名乗りをあげる事
私達の計画では、ワイマール王国の解放も含まれており、それはつまり王政をなくすことでもある
そうなると、リーナ姫も姫ではなくなる
しかし、父も命の恩人であり友のフィリップの娘である彼女との結婚を反対することはない
姫であろうとなかろうと私の気持ちは変わらない

それほどにまで強く心に住み着く彼女への思いが、実際の彼女を目の前にして溢れそうになっていた

だから、普段ならこんな焦ったりしないのに、疲れているだろうと分かっていても彼女に会いに来てしまった

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