イジワル騎士団長の傲慢な求愛
しかし。
花瓶が割れた際に響いた物音は、外で神経を研ぎ澄ませていたルーファスにとって、充分すぎる手がかりとなった。

「――セシル!!!」

部屋の外から、ルーファスの声が聞こえた気がした。
セシルは自分の耳を疑った。こんなところにルーファスがいるわけがない。期待が幻聴を生み出したのだろうか。
けれど――

「セシル!! そこにいるのか!?」

強く扉を叩く音がして、セシルはそれが紛れもない現実なのだと知る。
同時に男たちの警戒心があらわになる。

「んんっ――」

セシルは喉の奥を鳴らして、必死に答えようとした。けれど、巨体の手がセシルの首を強く締め、唸り声すら上がらなくなった。
首の骨をへし折られそうな勢いで締め上げられ、セシルの意識は遠のく。

「ヤツが来る前に、その女を殺せ! 早く!」

冷静だった方の男がルーファスの乱入を恐れ焦ったのか、取り乱し叫び、腰の剣を引き抜いた。
鈍く光る刃を振り下ろそうと、セシルの前でかまえたとき。

けたたましい轟音が響き、扉が乱暴に開かれた。鍵の金具が外れ、留め金と木片が周囲に散らばる。ルーファスによって扉の鍵が蹴破られたのだ。

「セシル!!」

ルーファスが部屋に飛び込んでくるのを、セシルは朦朧とした意識の中で眺めた。

ルーファスは、床の上で首を絞められぐったりとしたセシルの姿を見て、蒼白になった。
さらに、引きちぎられたドレスを目にして、怒りをわっと噴き上げる。
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