イジワル騎士団長の傲慢な求愛
自分の心を嘘で塗り固めて、二度と触れないように固く押し込めた。
彼の姿を思い浮かべては、半身が抉られるような痛みを感じながら、感情を亡きものにしてきた。

現実とはそういうものだとあきらめていた。
誰もがしがらみに囚われて、苦痛を背負いながら生きている。
少なくとも、弟の代わりに生きてきたこの六年間は、そうだった。

それなのに、セシルとして――女性として生きることが許された上に、ルシウスという優しくて聡明な男性にプロポーズをされて、今はこれ以上ないくらいに幸せであると、必死に言い聞かせてきたのだ。

「これ以上を望むなんて、そんな贅沢なこと……」

じわりと涙を滲ませるセシルに、ルシウスは表情を緩め、反対にシャンテルは情けなく眉を下げた。

「もう、我慢しなくてもいいのよ。あなたはこれまで、たくさん頑張ってきたのだから」

美しく飾り付けられたベールと髪飾りが乱れてしまわないように、シャンテルはそっとその腕にセシルを包み込む。

「ずっと助けてあげたかった。なのに、なにもできなかった不甲斐ない姉を許して」

救いを求めるかのようにシャンテルは懺悔する。

「いい加減幸せになってちょうだい。お願いよ」

いつでも明るくて毅然とした姉の涙声が、セシルの鼓膜を震わせた。
そんなシャンテルの肩をそっと抱いてその身を引き受けたのは、ルシウスだった。

ルシウスはシャンテルを自分の肩に抱き寄せて落ち着かせながら、セシルへ柔らかな視線を向ける。

「兄を……ルーファスを幸せにしてやってください。あれは、自分勝手に見えて、大切なところで自らを押し殺してしまうんだ」
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