イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「んっ……ぁっ……」

言葉を発することも許されず、絶え絶えの吐息が普通ではあり得ない音になってセシルの喉から漏れた。

「なんだその声は。俺を誘惑しているのか?」

「違っ――」

「その挑発、乗ってやる」

「ルーファスっ――!」

ルーファスの大きな手のひらがセシルの腕を捕まえて、頭の上に持っていく。
このままでは好き勝手されてしまう。意地悪な彼のことだ、この上なく恥ずかしいことを要求してくるに違いない。

「ま、待ってぇ!!」

思いっきり力を込めてルーファスの肩を押し返すと、力自体はたいしたものではなかったが、ルーファスを面食らわせる程度の威力はあった。

「セシル!?」

「まだ、こ、心構えがっ!」

「はぁ?」

ルーファスは信じられないというような顔でセシルを見る。
一般的に言って、初夜にまだ心構えが出来ていないと拒否されたら、そういう反応が返ってくるのは当たり前かもしれない。

けれど、そもそもふたりの結婚自体が突然のもので、本来であればルーファスとシャンテルが初夜を迎えるはずだったのだ。
セシルは、まさか自分がこんなことになろうとは、夢にも思っていなかった。

「そ、そんなに焦らなくても、私は逃げませんしっ」

「お前の親父さんからは、早く息子を産んでくれと言われているのだが?」

「うっ……」

それでも必死に嫌がるセシルを、ルーファスはふてくされた顔で睨んだ。
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