イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「……そんなに言うなら、お前が『抱いてください』と頼んでくるまで手をだしてやらないからな」

「え……?」

「もういい。寝る」

ルーファスは投げやりに言い放つと、反対側を向いて横たわり、寝る体勢に入ってしまった。

「ル……ルーファス……?」

夜着の裾をちょいちょいと引っ張るが、反応してはくれない。もしかして、怒らせてしまったのだろうか……。

しばらくすると、安らかな寝息が聞こえてきた。昼間は結婚式に会食に、たくさん気を使っていたようだったから疲れたのかもしれないが――。

「……本当に寝ちゃったの?」

ゆっくりと休ませてやりたい気持ちはもちろんあるが、もう少しふたりの時間を楽しみたかったという思いもある。
肉体的な愛情表現どうこうではなく、もっと心の内を確かめ合いたかったのに。

(愛する人と、夫婦になれたはずなのに)

拒んでしまった自分が悪かったのだろうか。
けれど、結婚すら予期していなかったのに、なんの躊躇いもなく体を重ねられるほど器用ではなくて……

寂しさが膨れ上がる中、そっと布団に潜り込み、ルーファスと同じように反対側を向いて横たわると、背中と背中が触れ、セシルよりずっと高い体温がじんわりと冷えた体に侵食してきた。

体だけは温かいのに、心はちっとも温かくない。一日の最後に見たルーファスの顔は不機嫌で、こんなはずじゃないと思った。

初めてのふたりの夜。
彼の笑顔とともに眠りにつきたかった。

(明日は……ちゃんと……)

ごめんなさいをして、仲直りしよう。そう心に誓って、セシルは瞳を閉じた。
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