イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「ローズベリー家は消滅しないので安心してください。今、父が亡くなれば叔父が、いつか私や姉に息子が生まれれば、その子が爵位を継承します」

ルーファスが心配しているのは家名だろう。弟の婚約前にローズベリー家が消滅してしまえば、身分なき女性を家に引き入れることになる。それは避けたいはずだ。

しかし、ルーファスはたいして深刻な顔もせず、壁に背をもたれ腕を組んだ。

「セドリック伯爵も、随分と無茶を言ったものだな。お前も辛かったろう」

不意にルーファスの手が伸びてきて、セシルの黒髪をひと撫でする。
深蒼の瞳が、わずかに憂いを含み、セシルを見下ろしていた。

あの晩の影が重なって、思わずセシルはドキリと鼓動を高鳴らせてしまう。
どうしてこんなことを思ってしまうのだろうか、仮面の君は、ルシウスの方だというのに。

頬を赤くしてうつむくセシルを見て、ルーファスは目を見張り、思い出したように口の端を跳ね上げた。

「ああ、お前は男が得意ではないのだったな」

そう言って手を離したかと思いきや、今度はセシルのおでこをピンと指ではじく。

「ル、ルーファス様っ!?」

「自分で男を演じていたくせに。おかしなものだな」

「からかわないでください!」

「ああ、その反抗的な目は、宮廷で会ったときと同じだな」

今度こそあははと大きな声で笑って、ルーファスはセシルの髪をくしゃくしゃと撫でた。
せっかく綺麗に梳かしたというのに台無しだ。この男は乙女心なんて理解できないらしい。
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