イジワル騎士団長の傲慢な求愛
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あの晩。仮面舞踏会などに忍び込もうと考えたのは、煌びやかな世界への憧れだったのかもしれない。

「――あっ!」

後悔したのは、パートナーの足を踏んでしまったときだった。
ろくにレッスンもしていないのに、ダンスが踊れるはずもない。

社交界に縁のないセシルにとっては、華やかな紅のドレスも、先の尖った高いヒールも、扱いきれない代物だ。
とくに、この羽飾りのついた仮面、思った以上に視界が悪く、重さで頭がぐらぐらする。

「……ごめんなさい」

ダンスを申し込んでくれた不運な紳士にお辞儀して、逃げるように舞踏会場の隅へと走りだす。

しかし、その手はあっさりと掴み取られてしまった。

「ダンスはお嫌いですか?」

白金の髪に深蒼の瞳。精緻な金の刺繍を施した燕尾服を纏い、見るからに高貴な身分であろう彼が、セシルの腕を掴んで放さなかった。

「……私にダンスは、向いていないようです」

「ならば、ともに抜け出さないか?」

「え?」

すかさずセシルの指先を彼の手のひらが包み込む。
指を絡めて固く結ぶと、仮面の下の瞳を細くして、口の端を不敵に跳ね上げた。

「実を言うと、飽き飽きしていたところなんだ」

セシルの意見などお構いなしに、彼はホールの外へと歩き出す。
そのままセシルを攫って、辿り着いた先は誰もいない夜の庭園。

「人の波に埋もれるより、庭園の花を眺めている方がずっと有意義だと思わないか?」

彼はニッと微笑んで、セシルの手の甲に口づけを落とした。


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