イジワル騎士団長の傲慢な求愛


「セシル様、ひとつよろしいでしょうか」

宮殿から屋敷へと帰る馬車の中。
二頭の馬が引く対面式のキャリッジに腰掛け、フェリクスが神妙な面持ちで切り出してきた。

「……嫌。なにも言わないで」

どうせお小言に決まっているし、自分でも重々承知のことしか言われないだろう。
しかしきっぱりと拒否したセシルを無視して、フェリクスは言葉を続ける。

「あの殿方と、いつからあのような関係でいらっしゃるのですか」

「っお、お父様には言わないで! 絶対!」

セシルの従者であり優秀な政務官でもあるフェリクスは、伯爵である父・セドリックから絶大な信頼を寄せている。
つまり、セシルの味方でありながら、同時に父のスパイでもあるのだ。

焦り苛立つセシルへ、ポーカーフェイスを取り戻したフェリクスは冷静に問い詰めた。

「返答次第です。あの方がどこの誰だか、知っておいでですか?」

「……知りません」

フェリクスの眉間に、くっきりと皺が寄る。

「見知らぬ男性と、勢いであんな行為を――」

「――わかったからやめて!」

見知らぬ男性と――と言われれば反論のしようもない。
けれど、セシルの恋心は一夜の過ちなどではなく、ひと月前、初めて出会ったあの晩からずっと胸の奥で温めてきたものだ。
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