イジワル騎士団長の傲慢な求愛
そこへ、咳払いが聞こえてきた。

ルーファスが立ち止まりうしろを振り向くと、そこには満面の笑みを浮かべるルシウスがいた。

「……ルーファス。彼女を抱いたまま走って疲れたでしょう。俺が代わります」

「大丈夫だ、この程度――」

「ルーファス」

笑っているはずルシウスの瞳が、なぜかセシルには怒っているように見えた。
得体のしれない圧力に、なんだかうすら寒くなる。

「彼女は、俺の婚約者です」

「……わかった」

ルーファスがそっとセシルの体をおろす。すかさず今度はルシウスが抱き上げた。

「……部屋を案内してください」

打って変わって裏のない優し気な笑顔を向けられて、セシルは困惑交じりに頷く。

「……はい」

ルシウスの抱き方はとても丁寧で、大切に扱われているということがセシルにもよくわかった。
けれど、あの晩、仮面の君に口づけを求められたときの、少し強引で情熱的な抱擁は、どちらかというとルーファスに近くて。
またズキリと、理由のわからない疼きがセシルの胸の奥を襲った。
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