イジワル騎士団長の傲慢な求愛
幸運にも再び矢が降ってくることはなく、ふたりは屋敷の中に逃げ込むことができた。
待ちかまえていたルシウスが、即座に木戸を閉め、安全を確保する。

屋敷の中はあきらかに混乱していた。バタバタと走り回る使用人たち。
強襲など今まで受けたことがなかったせいもあるだろう。
セシルたちと入れ替わるようにして、門番をしていた警備兵が、普段は身に付けないような強固な鎧を纏って裏庭へ飛び出していった。

「ふたりとも無事か」

ルーファスの言葉に、ルシウスとシャンテルは頷く。

「ああ。そちらは――」

「彼女が足を痛めた。シャンテル様、医者を手配してもらえるか」

「わかったわ」

シャンテルが医者を呼びに慌ただしく駆けていく中、ルーファスはセシルを抱きかかえたまま歩き出した。

「お前の部屋はどこだ。連れていく」

「も、もう大丈夫です! 自分で歩けますから」

「こういうとき、淑女はおとなしく運ばれるものだ」

いつかみたいに押さえつけるように抱きすくめられ、セシルは大人しくルーファスの肩に顔を埋めた。
いまだ鼓動がバクバクと胸を打っている。

「……もう、危ないことはしないでください」

ルーファスは再び茶化そうと眉を跳ね上げる。けれど――。

「――っ」

セシルの真っ直ぐな眼差しに、言葉を呑み込まざるを得なかった。

「……わかったから、そんな目をするな。悪かった、心配をかけて」

観念したような声で、セシルの耳もとに呟きをもらす。
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