過保護なドクターととろ甘同居


相手の方も私の顔を見て足を止める。

その手には、うちのお店のテイクアウトのカップが握られていた。


「あ……どうも、こんばんは」


ペコリと頭を下げて、とりあえず挨拶する。

顔を合わせるのは、あの病院での診察以来。

早いものでもう一ヶ月近く前になる。

先生は今日もスーツ姿で、その上に黒いウールのステンカラーコートを羽織っている。


あの日の帰り、病院の前で見た診療案内の看板に『院長、忽那稜(くつなりょう)』と書かれてある先生の名前を発見した。

診療中に看護師さんたちが「院長」と呼んでいたから、間違いはない。

まだ三十代くらいの若さなのに、病院の院長だということに驚いた帰り道だった。


「こんばんは。仕事帰りですか」

「え、あ、はい……」

「最近、お店で見かけないなと思ってました」


先生から返ってきた言葉に意表を突かれ、驚きの眼差しを向けてしまう。

先生はそんな私の顔をじっと見つめていた。


「ここで働いているの、気付いてたんですか?」

「ええ、まぁ」

「そうでしたか……」

< 15 / 144 >

この作品をシェア

pagetop