過保護なドクターととろ甘同居
「院長、あの通りお忙しいしね。なかなか休みもないし、女性と交際する時間もないのかもしれないわね」
黙ってお弁当を口に運んでいた木之本さんは、おかしな方向に行きかけた話を軌道修正するようにそう言った。
「でも、さすがに何もなさすぎじゃない?」
「まぁ……そうね、確かに。女性とばかり接する仕事だし、お腹いっぱいなのかもしれないわね。休みの日くらい一人になりたいとか」
「えー、そういうもの? 私は院長の将来が心配よ」
「結婚してもいい歳だものね」
二人の話を聞いていると、まるで“息子の心配をする母親”のようだ。
年配のスタッフだからこその会話なのだと思う。
住み込みで働かせてもらうことになって少し心配をしていた。
もし、一緒に働くスタッフの中にそのことを良く思わない人がいたら……と。
あの先生なら、スタッフから好意を持たれていても何も不思議はない。
だけど幸い、この病院に勤めるスタッフは、木之本さんや宮城さんをはじめ、病棟の助手さんたちも年配の方ばかりだった。
私と同年代や、それより年下のスタッフはいなかったのだ。
先生の女っ気の無さについて語る二人の会話を耳にしながら、改めて働きにくい職場でなかったことに胸を撫で下ろす。