初恋マニュアル
なんか勝手に自己完結してるみたいだけど、私、なんにも答えてない。


じゃ、と言って教室に戻ろうとする羽生くんのシャツのすそを、気づいたら私はつかんで引き止めてた。


え?という顔をして振り返る羽生くん。


そりゃそうだ、私だってなんでシャツをつかんじゃったのかわからない。


わからないけど、このままじゃいやだってことだけははっきりしてた。


固まる羽生くんに、私は急いで思ったことを伝える。



「と、友達!友達からで大丈夫!」



顔なんか見れないまま、ギュッと目をつぶって必死にそうさけぶ。


しばらく沈黙が続いて、私はもしかしたら失敗したのかもしれないとそっと薄目を開けた。



「ありがと」



そう上から声が降ってきて、ホッとして顔を上げる。


そこには照れたように笑う羽生くんがいて、私はまだシャツをつかんだままだったことに気づく。


あわててパッとそれをはなすと、ちょっとだけ羽生くんが残念そうな顔をしたような気がした。
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