初恋マニュアル
黒板消しをゆっくりとすべらせて、規則正しく書かれた数字を消していく。


下の半分だけ消し終えて、届かない上の部分をどうしようかとぼんやりとながめた。


愛里に大丈夫って言ってしまったわけだし、自分でなんとかしたい。


考えた結果、私は黒板消しのはしっこギリギリのところをにぎりしめて、精一杯背伸びしておもいっきりうでを伸ばした。


必死に届くところまでなんとか消していたとき、ふいに私の手から黒板消しがうばい取られた。



――えっ!なに?



背後に感じる人の気配。


振り返ると、だれかの胸が目の前いっぱいにあった。



「届かないなら、だれかにたのめばよかったのに」



クスクス笑う聞き覚えのある高めの優しい声。



――三浦くん?



密着した体にびっくりして、私はおもわず後ろに下がった。


背中が黒板にあたる。


三浦くんはそんな私のことなんかおかまいなしに、どんどん黒板の上の部分を消していく。


それと同時に私からもどんどん遠ざかっていった。


よくみると三浦くんはジャージを着ていて、部活に行くところだったのかもしれない。
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