初恋マニュアル
「それでも、好きなんでしょ?」
柔らかな温もりが私を包み込む。
同じシャンプーを使ってるはずなのに、愛里の髪からはいい香りがした。
女の子の憧れの的みたいな愛里が、私の親友だなんてウソみたいだけど、こうしていつでも私の気持ちをわかろうとしてくれる。
「……うん」
「そっか」
「でもね?」
「うん?」
「もう……あきらめようとおもう」
それは昨日からずっと考えてたこと。
あきらめるなんて口では簡単に言えても、心はそうできないってわかってる。
それでも私が三浦くんを好きでいる限り、周りの人を傷つけてしまう。
愛里も羽生くんも、そして三浦くん本人でさえ。
私があきらめて前に進めば、だれも傷つかずにすむような気がした。
「……それでいいの?」
愛理の顔が心配そうに私を見る。
「それがいんだよ……きっと」
他人事みたいに言いながら、この先他の人を好きになることなんて出来るんだろうか?と思った。
あの夏祭りで、初めて好きになった相手が三浦くんでよかったって確かに思ったのに、もし三浦くんじゃなかったらこんなにつらい思いをしなくてすんだかもしれないって、思ってる自分もいる。
初恋は実らないもの。
そう、どこかで聞いたような気がする。
すぐに忘れられるはずもないけど、時間とともに思い出に変えていけるのかもしれない。
あんなにゆうくんのことが大好きだった愛里が、また新しい恋をしてるってことがその証拠だ。
心配そうにまだ見つめてくる愛里に、私は小さくほほえんだ。
「愛里に負けないように、私もまた新しい恋を見つけるよ」
その言葉に少しだけおどろいた顔を見せた愛里は、一瞬悲しそうに目をふせたけど、最後にはふっきったように
「美羽がそう決めたなら、私はそれを応援するよ」
と、笑顔を見せてくれた。