浅葱色の鬼

歳三

急にポロポロと泣き出す紅音を
胸に抱きしめた
  

「思い出せないの… 私…
貴方の名前も、皆の名前も!
私… なんの病なの!?
こんなんじゃ、元気な子供が産めない!
どうしたらいいの!!教えてよ!!」


不安を吐き出しはじめると
たまっていた分、苛立ちが混じっていた




「俺は、全部覚えてる
紅音と出会って、恋心を抱き
今に至る全て、俺の中にある
紅音は、たくさんの辛いことを乗り越えてきたんだ
きっと… たくましい母親になる!」



最後は、声が震えてしまった

出産を終えると紅音は、寿命を迎える


それを悟られてはいけない

だが、それを想像して怖くなる


俺の不安が、紅音を不安にしてしまう



「私たち、夫婦じゃないんでしょう?」




勘の良い紅音が、俺から感じとってしまう





「俺は、夫婦でありたい
紅音を妻にと願ってきた
ずっと ずっと 昔から」


「ねぇ 私… 妻でいていいの?」



「当たり前だ
俺や皆の名前、紙に書いてやろう」



「本当!?たくさんいるのに、いいの?」



「ああ 今日は、急ぎ仕事がねえって言ったろう?」



「嬉しい!!困ってたの!!
配り物とかできなくて」



「早く言えばいいのに
よし!皆にも手伝わせて、誰の部屋かわかるように名前を貼らせよう!」


「皆の名前わからないなんて、申し訳ない」


「気なんか使うな
困った時は、そこら辺の幹部とかに声かけてれば、助けてくれる
それから、外出禁止は捨てていいぞ
外出する時は、幹部を付き添わせること!
書き換えてやるよ」


「ふふっ 頼もしい!
旦那様にもっと早く相談すれば良かった!」


「ふっ これからは、そうしろ」


「はい!」




この会話を明日、覚えているだろうか













その予感は、的中した








しかし、貼り紙のおかげで少しは不安を取り除けたらしい


屯所内で迷子になることも、しばしば



日に日に、失われる記憶

毎日、何度も紙と睨めっこしては
屯所内を歩き、具合が悪くなり
動けなくなる




ハッキリ言って、目が離せなくなってきた








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