浅葱色の鬼
近藤が披いてくれた花見


土方の子を妊んだ娘や
それぞれの妻達も集まった宴





見覚えのある桜や寺

誘われるがままに、歩いて近所の屋敷に
入る


門、廊下、部屋、炊事場



どれも懐かしい感じ




私は、ここにいた




初めて新選組との生活を実感した




ストンと縁側に腰を下ろすと


私の後をずっと黙ってついてきた幹部達が
いつものように私を囲んだ


そして、いつものように
土方が私を膝に乗せ後ろから、抱きしめる



「思い出したか?」

「何も」



変わらぬ返答をすると


「ええーーー!!」

「絶対、思い出したと思った!」

「うんうん!そんな感じで歩いてました!」


等々


がっかりする声が、煩い



「考えていたことがある」



私が、そう切り出すと

静かに私に視線が集まった



「消したいほどの記憶なら
思い出さない方が、良くないか?」



誰も何も言わないのは
少なからず、そう思っていたと判断する




「俺は……紅音を妻にしたい」



「過去の私が、どんな関係にあったにせよ
土方には、大切にしなければならない相手がいる」



サッと、土方の膝から下り

庭に立つ



「選べ
私を妻にしたいと2度と口にしないか
全員の記憶を消すか」




「そんなの選べねぇ…」


「では…」


土方に顔を近づける


「私のもう一つの名を呼んでみろ」


土方が知っているかは、わからなかった

夫婦になりたいほどの恋仲なら
知っているだろうという賭け



結婚相手にしか教えない名前



その名は、命である体に呼びかけると
私は、死ぬ




私が、命が…
いなくなることを
私自身が望み

社と共に終わりを迎えろと文を残した





きっと、新選組の為なのだと信じて



私は、終わりを受け入れよう















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