浅葱色の鬼

歳三

近づいてきた紅音がニヤリと笑う


「私のもう一つの名を呼んでみろ」



見惚れ固まる程の美しい顔は
早く言えとばかりに
目を細め、優しく笑い続ける



確かに俺の頭には、紅音のもう一つの名



〝紅梅の命〟(コウバイノミコト)




しっかりと名が浮かんでいた

それさえ言えば、このまま暮らせる




「コウ… 「歳!!言うな!!」 」




全員が驚き近藤さんを見る



ただひとり宴に残った近藤さんが
いつの間にか、ここにいた

近藤さんが紅音に近づくと
険しい表情のまま


「なんのつもりだ!!」



こんなに声を荒げる近藤さんは、久しく
何より、女にこんなに言うことはない



「心配することはない
ただ… 名を呼んで貰いたかっただけだ」


「出て行ってくれ…
君の望みは、新選組を離れることだろう」


紅音は、にこりと微笑んだ



「私は、よほど近藤を信頼していたのだな
ありがとう、そうさせて貰う」




「え……ちょっと!紅音さん!!」



総司が紅音を追いかけようと立ったが




「追うな!!
これより、紅音との縁を切る!!
歳!!お前には、君菊がいる!!
君菊を傷つけてまで、手に入れる幸せが
お前の幸せとは思わない!!」





近藤さんのこんな怒ったところを
見たことがない


どうしてそんなに怒っているのか
理由を言わないまま

全員で宴に戻った



昨年、この桜を2人で眺め語ったことを思い出した


その時も、紅音はいなくなったんだっけ…















その夜



俺は、近藤さんの部屋を訪ねた

理由なしに怒る人じゃないことは
俺が良く知っている


「遅かったな」


と、近藤さんが言ったのは
すでに幹部達が先乗りしていたからだ


「歳… 紅音の名は、口にするな
名を呼べば… 紅音は、死んでしまう」


「……死のうとしたってことか」


「そうだ
紅音の様子が、ずっと気になっていた
何にも関心を持たず、こちらのことを
伺い続けていた
きっと……新選組の為に離れようとする
そんな気がしていたが
まさか、死のうとするなど思っておらず
腹を立ててしまった
だが…… 
紅音は、生きて別れることを望んでいた
このまま、縁を切るべきだ」



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