浅葱色の鬼

紅音

怪我をしたのは、足なのだが

私を心配して
皆が仕事を手伝ってくれる


大切にされている心地よさと
照れくささ


治せる怪我を心配して貰う
申し訳なさ



「どうしたの?」


いつもの場所で、庭を眺めていると
沖田が、不思議そうに顔を傾け
隣に座った


「やることがなくなった」


「ん?」



平隊士らが仕事を代わってくれたと
話をすると


「皆、紅音さんに気に入られたいんだよ
土方さんに気を使って、話掛けられないけど、仲良くしたくて仕方ないんだろうね」


「私と…?」


「そうだよ
紅音さんは、忘れちゃったけど
新選組と紅音さんは、色々あったんだよ」


「その色々を聞いてもいいか?」


「うーん そうだね
土方さんが、平隊士にめちゃくちゃな稽古つけててさ
紅音さんが、土方さんを一喝して
すっごく格好良かったよ!」


「……へぇ」


「ふふふっ
興味ないなら聞かなきゃいいのに!」


「沖田は、どちらの私が良い…?」


「どちらも紅音さんに変わりませんよ
雰囲気や口調が違っても
あなたは、いつも僕達の事を考えてますからね」


「私は、ひとりだったから
藤堂が仲間だと言ってくれて
本当に嬉しかった
このまま…命でいれば
また、皆を見送ることになる
皆が生まれ変わったら、私を忘れ
また… ひとりになる
慣れていたことなのに
初めて、それが怖いと思った
それほど私の心には、皆がいる」


「そっかぁ~
嬉しいなぁ~
人になったら、すぐに祝言だね!」


「え?」



心底驚いた
なぜ、そうなる…



「え?って、好きなんでしょ?
土方さんの事!」


「そんな事、言ってない」


「えー?言ったようなものだよ?
『私が土方の事を好きになったら
妻にしてくれるか?』って、あれ!!」



……ということは
土方もそう想っているのか




「わかりやすいよね~
土方さんも!紅音さんも!」



「私は、聞いただけだぞ」




「紅音さん
土方さんに恋心があるって顔してたよ!
僕は、そういうの疎いけど
すごくわかりやすいから、隠しても無駄!」




沖田がクスクスと笑う





「わからない
としさんなのか、土方なのか」



「同じことでしょ!?」




同じ……だけど……



記憶がないんだ
土方に胸が高鳴る理由を
私は、思い出せないままなんだ











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