浅葱色の鬼
泣き寝入りをしたらしい

土方の腕の中で目覚めるのは
何度目だろうか


静かに腕から抜け出すと


いつもの縁側に座る




皆の記憶を消して、新選組を離れようとしたのは、この記憶が土方に蘇ることを
恐れたからだろう




離れるべきか…


人になり、土方に看とって貰うべきか…





「ふふっ」



行く先は、別れのみ

それが、おかしくて笑ってしまった

私と土方の子が命になるなど

苦しい言い訳などもした

そうまでして、離れる決意をしたのに

未だ、そばにいて


今は、人になろうとしている







「おはよう」

「おはよう」


近藤が、私の顔をマジマジと見る



「あの時と同じ顔をしているよ」

「あの時?」


「歳と君菊をくっつけた時さ…」


「覚えておらぬ
……おらぬが、今
土方が、誰かとくっつくのは、嫌だ」


「妻になりたいから?」



近藤は、私を試している



「……妻には、ならぬ
ここにいられたら、それでいい」



「何か、思い出したかい?」


「いや、何も」



平然と嘘をつく




「どうして泣いていたのか……
話しては、くれないのかい?」


「怖かっただけだ」


「何度も経験しているのに?」


「私は、覚えておらぬ
急に連れ去られて、目覚めたら一人で
怖かったんだ 土方が来てくれて
すごく嬉しかった それだけだ」


「嘘半分、本当半分
といったところかな
ハッハッハッ 実にわかりやすい」



笑っている近藤の後ろから
土方の足音が聞こえた


「紅音!!」


「うるさい」


「いないから、心配で…」


「情けない顔をするな
屯所内で、私をさらう勇気がある奴など
いるはずがない」













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