英雄は愛のしらべをご所望である
「どうだった?」
「まぁ、なかなかですかね」


口を開かなければ女性か男性かもわからないくらいに美しいというのに、第一声が今日の稼ぎについてである。セシリアの持つ籠の中を覗き込み、満足気に頷く彼、ラルドは、正真正銘大人の男性で、ハープの名手であり、セシリアの師匠なのだ。

若干言動が、見た目とのギャップも相まって残念なのだが、ラルドの弟子となってもう半年。この感じにも正直慣れてしまった。


「僕の演奏は最高だから」
「確かに、師匠の奏でる『英雄の唄』はいつ聞いても素晴らしいです」


セシリア達が暮らしているライズ王国内に伝わる英雄の伝説を歌った『英雄の唄』は、ライズ王国民ならば老若男女、誰でも口ずさめるくらい有名なものだ。
セシリアも例に漏れず、元ハープ奏者の母に教えられて、幼い頃から歌い続けてきた。

この国に住む者にとっては特別な歌である『英雄の唄』。皆、この歌を聴き、他国の侵略から守ってくれた黒き英雄を思い浮かべ、讃えるのだ。

けれど、セシリアはこの歌を聴くと別の人物を連想してしまう。

伝説の英雄と同じ色を纏う、感情を表に出さず、不器用で、だけど実は優しい、幼なじみの男の子。


「……今、何をしてるのかな」


騎士になる、と突然小さな村を出ていった彼を想い、セシリアは小さく息を吐き出した。
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