英雄は愛のしらべをご所望である
「わ、わたし……あの……」


言葉が見つけられず、セシリアは口籠る。なんと声をかけるのが正解なのか、全くわからなかった。

ウィルは孤児であることをセシリアが思っている以上に気にしていた。いや、ちゃんと考えれば当たり前のことかもしれない。

セシリアは屋敷に来る前のラルドの言葉を思い出す。


『歌う事は好きだ。ハープの演奏だってね。だけど、僕にとっては生きるための手段で、それは今も変わらない。今日の仕事だって、本音で言えば行きたくないけれど、生きるためにはやらなければいけない事だってあるから』


生きるための手段。それは、ウィルのことも当てはまるだろう。
孤児は成人とみなされる十七歳までには孤児院を出なければならない。その後は、自分の力だけで生きていかなくてはいけないのだ。

騎士という仕事は、ウィルにとって生きるための手段の一つであったって何もおかしいことはない。

それに、村にいれば、誰もがウィルの事情を知っている。確かに知っているからこそ、手を貸してくれる人もたくさんいるだろう。
だが、ウィルが言うように孤児という自分の過去から抜け出したいと考えたなら……己の事情を誰も知らないところで生きていきたい、と考えるのも普通のことだ。

セシリアはふっとある事に思い至る。あまりにも恐ろしい考えに、喉がひくりと泣いた。


「もしかして……私が『運命』とか、そういう事を言うのを嫌ってたのって……」


セシリアの問いを耳にしたウィルは、一度深く息を吸うと、静かに息を吐き出す。決意を固めるようなその様子に、セシリアは自分の考えが正しいのだと悟った。

聞いてしまった手前、もうウィルの言葉を止める術はない。セシリアは必死に喉元に力を入れ、襲ってくるだろう衝撃に身構える。


「孤児になることが運命だなんて、認められるか。自分の未来は自分で選んで、勝ち取ってみせる」


ウィルははっきりと言い切った。
本当に自分はウィルの何を見てきたのだろう、とセシリアは己自身に呆れ果てるしかなかった。
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