英雄は愛のしらべをご所望である
彼女のできること
雲ひとつない青空の下、日差しを避けるように木の根元に腰掛ける小さな二つの影。
一人は手元の本に視線を落とし、もう一人は楽しそうに自分よりも大きいハープを弾く。

跳ねるように軽快なメロディーかと思えば、吹き抜ける風のように優しく、時には身体の芯に響く低い音をゆっくりと奏でてみせる。

少女の口から紡がれる愛らしい声に乗り辺りに響く歌は、世間に伝わる唄とは比べられぬほど拙く、幼かった。


「ウィルの髪は絹糸のように綺麗。
ウィルの瞳は宝石みたい。
ウィルの口は時々意地悪。
ウィルの手は優しくて温かい。
ウィルの足は速くて強い。
ウィルは木の下がお気に入り。
本を読むのが好きだもの。
身体を動かすのも本当は好きね。
だけど優しいから一番は譲るの。
私はウィルの隣がお気に入り。
だってウィルが大好きだもの」


歌い終わった少女は「どう? 初めて唄を作ったの!」と満面の笑みを少年に向けた。そんな少女に少年は苦笑いを浮かべる。


「作詞の才能がなさすぎだ」
「えぇぇ、そうかなぁ?」


不満そうに口を尖らせる少女の頭をポンポンと撫でた少年は、そのまま本へと視線を戻す。
少女は頭に手を置いてへにゃりと力の抜けた笑みを浮かべると、再び同じ唄を歌い始めた。

少年が止めろと言わないのをいい事に、何度もなんども歌う。いつも少女の隣には、静かに本に視線を落とす少年がいた。
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