英雄は愛のしらべをご所望である
手を頭の上へと突き上げ身体を伸ばす。バキバキと関節が小さな悲鳴をあげると、埋めていた枕から顔を上げた。

少女の歌声が未だに頭の中から抜けてくれず、セシリアはこめかみに手を当てる。


「小さい頃の私ってあんな声だったかな」


そう言いつつ、もうすでに夢の中で聞いた声の記憶が曖昧になり始めていた。

モゾモゾとベッドから這い出たセシリアは窓に近づきカーテンを開ける。いつもならば目に刺さるほど眩しい光で出迎えてくれる太陽が、赤く色づき山の奥へと沈もうとしていた。

セシリアはふぅ、と小さく息を吐く。あんな夢を見たのは、昨夜の出来事を引きづっていたからに違いなかった。

伯爵家の誕生会から帰って来たのは明け方だった。すでにエデンの店主夫婦は起きていて、ヘロヘロなセシリアとラルドを見て、夜の営業はお休みしていい、と有難い提案をしてくれた。

この後の世話はいらないというラルドの言葉を受け、ベッドへとダイブしたのは、もう人々が動き始めている時間だっただろう。

色々なことがあったせいか、セシリアは考える間も無く夢の世界へと誘われた。
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