英雄は愛のしらべをご所望である
目線
ラルドのステージ公演は、夜の二回だけ。特に二回目の公演時は、閉店前ギリギリということもあり、始まる前からとても混み合う。

そのため、気負わずウィルと話してみよう、と思ったところで、そう簡単に機会を作れるはずもなく、セシリアはなかなか二人の席にすら近づけていなかった。
他の客の注文や仕給をしている間に、ウィル達のテーブルには飲み物や料理が運ばれ終わっている。

さすがに店員が用事もないのに客に話しかけるのはいただけないだろう。
セシリアは若干肩を落としつつも、テキパキと仕事をこなしていた。

セシリアが動くたび、頭の高い所で一つに結った彼女の銀色に近いプラチナブロンドの髪がふわりと揺れる。
キョロキョロと忙しなく動く、くっきり二重の藤色の瞳、ほんのり桃色に染まる柔らかな頬、ぷっくりとした小さな唇。

化粧気はあまりないものの、一般的なライズ王国民と比べても色素の薄いセシリアの姿は、とびきり美人というわけではないけれど、触れようとすれば消えてしまう妖精のように可憐だ。

客の中には、セシリアを目で追っている者もいる。全くセシリアは気づいていない様子だが。


「……昔っから危なっかしいんだよ」
「え? なんか言った、ウィル?」
「いいや」


ボソリと呟かれたその言葉は、賑わう店内に消えていった。
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