英雄は愛のしらべをご所望である
語り合おう


月や星は厚い雲に隠れ、しとしとと雨を降らせる。
こんな日は客足が減り、配給として働くセシリアにも暇な時間がたまに訪れる。

いつもは満席の店内も、ポツポツと数席埋まっているだけだ。ラルドの演奏まで時間があることも原因かもしれない。
セシリアはドリンクカウンターの内側で店内を見回しながら、グラスを拭いていた。

すると、店の扉がゆっくりと開く。客が来店したようだ。
セシリアは持っていたグラスを置き、扉へと近づいた。客の姿を捉えたセシリアの顔が、接客用のものから普段の笑顔に変わる。


「いらっしゃいませ、シルバさん」
「やぁ、セシリアさん。今日は一人なんだけど、いいかい?」


客は私服姿のシルバだった。着ている服全てが、今流行っているものばかりで、その着こなしにセシリアは感心する。
容姿が整っている人は、何を着ても絵になる。


「もちろんです。今日も演奏を聞かれていきますか? ステージの見やすい席が空いてますよ」
「本当? それじゃあ、そうしてもらおうかな」


にこにこと穏やかな笑みを浮かべ、シルバはセシリアの案内について来る。
ワインと肉料理を頼んだシルバは、さっと店内を流し見て、セシリアにいたずらっ子のような視線を戻した。


「雨だからお客さん少ないね。もしよかったら、手が空いた時にでもお話ししないかい? 俺、セシリアさんからウィルの話を聞いてみたかったんだ」
「ウィルの?」
「あいつ、全然話してくれないからさ」


そうだろうな、とセシリアはシルバの言葉に納得する。
やはり同僚としても友人としても知りたいのだろう。ウィルのことを気にかけてくれる人が、彼の側にいるというのは、なんだか嬉しかった。
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