英雄は愛のしらべをご所望である


セシリアは店主に許可をもらい、忙しくなるまでの間だけ、シルバの話し相手をすることにした。
騎士の仕事をしているウィルに興味があるなんて、声を大きくしては言えないが、知りたいのが本音でもある。

シルバの頼んだものを運び終え、食事も済んだ頃合いにセシリアはシルバの席へと足を向けた。


「来てくれて、ありがとう。セシリアさんと話せて嬉しいよ」


恥ずかしがる素振りもなく、シルバはさらりとセシリアと話せることへの喜びを伝えてくる。
あまりにもシルバが歓迎してくれるので、セシリアは照れくさそうにはにかんだ。

シルバは寡黙なウィルとは正反対のタイプで、社交性が高く、紳士で、たくさん話しかけてきてくれる人だ。二人がどんな経緯で仲良くなったのか不思議なくらいである。


「私もシルバさんともっとお話ししてみたかったので、嬉しいです」
「一番聞きたいのはウィルの話だよね?」
「あ、いや……」
「分かりやすいなぁ、セシリアさんは。いいよ、たくさん話そう」


ははは、と笑い声を溢し、穏やかな微笑みを向けてくるシルバに、セシリアはいたたまれず、視線を外す。

相手の本音がわかっていても、甘く優しく包み込む。これこそ理想的な大人の男性の手本である。
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