クールな王太子の新妻への溺愛誓約
心臓までもがそこに移動してしまったかのように、指先がドクドクと脈打った。
棘が刺さった痛みが、急激な引き潮のように消えていく。そのかわりに今まで味わったことのないような感覚が訪れた。
甘く、それでいて胸が震える。同時に、どこかでこの光景を見たことがあるような気がした。
指先にレオンの温もりを感じながら、マリアンヌは魂が抜けたように立ち尽くす。
ちょうどその時薄い雲が満月にかかり、辺りが薄暗くなった。記憶を探る、あてのない時間旅行がふと途切れる。
レオンは唇を離し、「幼い頃と変わらないな」と笑った。
「……では、よくこうしてレオン様に棘を取っていただいたのですか?」
「ああ。このバラ園を駆けまわっては、よく棘を刺していた」
やはりそうだった。頭の片隅に残るレオンの唇の感触を、マリアンヌは知っていた。
ひとつでもクレアに繋がるものを持っていることが嬉しい。
自分が本当にクレアなのだとしたら、レオンとの思い出はほかにどんなことがあるのだろう。
「どうかしたのか」