クールな王太子の新妻への溺愛誓約

「マート、クレアに命を助けられたな」


レオンに言われたマートは、地面に両手を突いたままがっくりと項垂れる。そして、握りしめた拳で力なく土を叩いた。


「このままモンタリスクへ帰るくらいならば、今ここで――」


なにを思ったか、マートはもう一本隠し持っていたナイフを胸元から取り出し、それを自身の喉元に向けた。
再び緊張が走る。


「マート! なにをするつもりですか!」


虚を突かれたクレアの叫び声が辺りにこだまする。突然の事態に、今度ばかりはクレアの体は硬直。“もうだめだ”と思い、クレアは目をぎゅっと閉じる。

ところが次の瞬間、「――くっ!」というくぐもった声が聞こえ、金属が転がる乾いた音がした。
おそるおそる目を開けてみれば、レオンがマートの腕を捻り上げている。


「クレアが救った命をみすみす手放すことは、この私が許さぬ」


レオンは険しい表情でマートを見下ろした。

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