臆病なきみはうそをつく
「ふ、冬室くん」


彼の左側から声をかけると、すぐに振り向いた。

スマホをかばんにしまい、私に笑いかける。


「……笠原さん」

「あ、あの、課題……あ、英語の課題、が出てない……みたいなんだけど」

「うん、ごめん」


口では謝りながらも、全く悪いとは思ってなさそうな顔で冬室くんはうなずく。

すぐに机からノートを取り出した。


(……ん?)


この素早い反応…。

もしかして、課題を出してないこと気付いてたのだろうか。

まさかまさか、わざとなんてことは……。


「……ごめん。実はわざと出さなかったんだ」


ーーーわざとかい!

思わず心で突っ込む。


「……ど、どうして……?」


冬室くんは、どちらかと言えばおとなしいタイプで、いたずらや嫌がらせをする人じゃない。

でもいたずらじゃないとしたら、なぜこんなことをしたんだろう。


「うん、実は……」


椅子に座った冬室くんが、見上げるように私を見つめる。

光を失った右目も、真っ直ぐに私の方を向いている。

どこまでも黒い目に見られると、少しどぎまぎしてしまう。


「……冬室くん?」

「実は……笠原さんと、2人になりたかったんだ」

「えっ?」


はっとして見回すと、クラスメイトはみんな教室から出ていったあとだった。

いつの間にか帰ってしまったようだ。


冬室くんは私にノートを差し出し、笑みを深くする。


「ごめんね。でも、こうすれば2人きりになれるかと思って」
< 12 / 94 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop