臆病なきみはうそをつく
その日、家に帰ると、母にリビングに呼ばれた。
リビングのテーブルの上には1台のスマートフォンが置かれている。
あれは……
「日南子、あんたのスマホ、直ったよ。
はい。お母さん取ってきてあげたから」
「………あ、そうか」
そういえばベキベキのスマホ、修理に出していたんだった。
絶対直らないと思っていたけど、どうにかなったらしい。
私は母からスマホを受けとる。
懐かしい重み。
なんとなくうっとうしくて、修理中の代替器をもらわなかったので、久しぶりのスマホの感触だ。
「…今度は大事にしなさいよ。普段はスマホにべったりのくせに、あんなにボロボロにするなんて……!」
「わかってる。ごめんね」
私は母に謝ると、スマホを持って部屋に戻った。
……これで、また、小説が書ける。
でも、今さら書いても何になるのか。
あの日、私に書くように言った冬室くんはいないのに。