わたしがまだ姫と呼ばれていたころ

目を閉じているから、嗅覚がより研ぎ澄まされているのかもしれない。
フランキンセンスは、姫の大好きなエッセンシャルオイルのひとつだった。
香りを嗅いでいると落ち着くし、なんだかとても懐かしい感じがする。

先生の両手が、姫の側頭部を優しく包み込む。心地よくて眠ってしまいそうだ。

「どんな映像が見えても、ただ見ていてください。何も考え……」

先生の言葉は、そこで聞こえなくなった。


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