不機嫌なジェミニ
動物園を後にし、大きな池がある公園を歩く。

ソメイヨシノは終わってしまうけれど、八重桜は満開に近い。
濃いピンク色の沢山の花びらが重なって重たそう顔を下を向けている。

花びらの重なりを詳しく見ようと近くに寄ると薄く柔らかい香りがした。
私がスマホを取り出し、何度もシャッターを切っていると、

「熱心だな」とジンさんが私の後ろに立って桜を見上げていた。

「綺麗だなって思ったものをカメラに収めておくんです。
あんまり見直さないんですけど、じいっと見てからシャッターを切るので、
ディテールは覚えていて…
デザインに役立つ時もあります。
まあ、…あんまり…コレっていえないんですけど…」


「まあ、そんなもんだよ。
でも、その時の気持ちや匂いや雰囲気って思い出したりして…
どうデザインに影響してるのかはわからないけど…
シンと静かな静謐(せいひつ)なイメージとか、
明るい春の陽射しの感じとか…
俺も感じた事を形にしている感じかな。
トウコも、お題のデザインだけじゃなく、感じた事を形にするって
そのうち…やってみるといい。」とジンさんも八重桜の匂いを吸い込んでいるみたいだ。

「はい!」


「あー、その返事って、仕事みたいだな。」と顔をしかめてから私に笑いかけた。





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