魔王
そのに
「よう、学者先生。どうしたんだい?」
「播磨尾か。美代子を見なかったかい?」
播磨尾と呼ばれた野良猫は、ゴミ捨て場に粗雑に出されていたビニールの袋から顔を出して、政彦の足元に跳び寄った。
播磨尾の右の耳は、楔形に大きく欠けている。
汚れた毛並みは、縦横に逆立ち、尻尾は白髪交じりの長毛で膨らんでいる。
「見たね。奥さん、誘拐されたぜ」
播磨尾はこともなげに答えた。
「でも、警察に連絡したって無駄だぜ。
 奥さん連れてったのは、魔界の魔王なんだからよ」
「そいつぁ、壮大だ」
政彦は、出しかけた携帯電話を再度ポケットにしまいこみ、ため息をついた。
「おい、どこいくんだよ?」
「コンビニだよ。美代子の話は道すがら聞かせてくれよ」
「人間てのは不思議だなあ、てめえの女房が居なくなったのに、ちっとも慌てていやがらねぇ」
「君こそ、近所に隠れてエサをくれる美代子が居なくなって慌ててるんじゃないのか?
 それとも、牛乳もキャットフードも要らないか」
「要るよ! 先生、待ってくれよ!」
野良猫は、人間の足に追いつくべく駆け出した。
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