魔王
そのいち
美代子は厄介ごとをよく持ち込む。
「このメゾンではペットはダメだって知ってるだろう」
「ニャー」
美代子の変わりに猫が答えた。
既に夕暮れは過ぎ、窓の外は藍色になっている。
夏の夜長も夏至を過ぎて暑く、冷房が効いていない部屋は蒸している。

政彦は、ダンボール箱にタオルを敷いた寝床ごと子猫を抱え、ベランダ際に寄った。
ガラス戸を開けると、風が涼しげに入り空気をひっくり返した。
「おかしいなぁ」
体の弱い美代子がこんな暑い日に外に出たままということは考え難い。
部屋のあちこちの窓を開けながら、政彦は思考を巡らした。
外出して猫を拾い、すぐまた出かけ、何か事件に巻き込まれたのだろうか…
忘れ物をして再び外出したにしても、猫もいるし、主婦である彼女が夕食の支度をしていないのも不自然だ。

政彦は、子猫を風通しの良い網戸の下に置きなおすと、2,3度頭をなぜてみた。
暑さでダレてはいるが、まだ元気があるようだ。
冷蔵庫に与えられそうなエサがないことを確認して、政彦は近所のコンビニへ向かった。
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