クールな部長とときめき社内恋愛
彼の部屋に着くまでその手は離れず、リビングへと入った瞬間、後ろからぎゅっと再び抱きしめられた。

「逸希さ……」

「悪い、本当に……少しこのままでいさせてくれ」

切なげな彼の声を聞いて、わたしは彼の腕にそっと手を添える。避けている間、辛い気持ちにさせてしまっていたんだ。

「ごめんなさい、逸希さん。怖がって話を聞けなくて……」

「倉山常務のことは、ずっと心に引っかかっていたんだ。なのに自分から打ち明けられなくて、兄さんから聞かせるなんて。兄さんには、三課に異動するときに舞花が倉山常務の元恋人だという話を少しだけしていたから……本当にごめん」

「……もう、いいんです。だってわたし、逸希さんのことを避けているときもずっと逸希さんのことが頭から離れなくて、ふとしたときに考えちゃって……やっぱりわたし、逸希さんのことが好きだって改めて思ったんです」

そう言って、腕の中でくるりと体を動かしたわたしは、彼と向かい合った。
そばにある温もりに、ほっとする。

「以前、逸希さんが書いた付箋でまだ見つけていないものがありました。テーブルの裏に貼ってあった、逸希さんの気持ち。その言葉を信じたい」

「舞花……」

想いを募らせたような悩ましい表情をした逸希さんは、そっとわたしの頭を撫でた後、手を頬に移動させる。わたしの顔が持ち上げられて、ゆっくりと唇が近づいた。
触れるだけのキスで、体が熱くなる。
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