昼下がりの情事(よしなしごと)

先刻(さっき)から和哉を贔屓しまくっていた、普段は女子大生であるバイトのウェイトレスは、胸にトレイを抱きしめ、ぽお〜っとなり心ここにあらず、の状態だ。

……結婚指輪はしてないようだけど、彼女いるかなー?あんなにカッコいいんだもん。絶対いるだろうなぁ。あぁ、何番めの女でもいいからつき合いたい〜!


休日なのに、クライアントとの打ち合わせで来ていたサラリーマンは、同世代の和哉に度肝を抜かれている。絶対、同じ部署にいてほしくないヤツだ。あんなヤツ、絶対にライバルにしたくない。

……でも、あのお辞儀さえあれば、多少のヘマは許してもらえるかも。自分がなにかしでかしたときは一緒に来て謝ってくれないかなぁ。


大きな声で、韓流スターのファンミーティングのために韓国へ行ったときの話をしていた「女子会」のみなさんも、ぷっつり話を止めて、和哉に目が釘付けになっている。

……娘の婿がもし彼だったら。
いいえっ!娘には渡さないわっ。渡すもんですかっ!旦那(おとうさん)に死んでもらって、わたしの再婚相手になるのよっ‼︎


外国人の観光客が、インスタにでも載せるためだろうか、スマホで和哉の姿をさかんに撮っていた。興奮しながら、カタコトの日本語で何やら叫んでいる。

「……スゴイ!……サムライ!……ブシドー‼︎」
まではよかったが、そのうち、
「……フジサン!……スモー!……テンプーラ!……ゲイシャ‼︎」

思いつくままの日本語になっていた。


チャーミーグリーンのCMのような老夫婦の、夫の方が妻にむかって、

「見たまえ。懐かしいねぇ……あれが、本来の『最敬礼』だ。ひさしぶりに見たよ。今の時代は、最敬礼と言っても、頭を下げる角度が浅くなったからなぁ……」

と言って、目を細めていた。


「見たまえ」と夫からわざわざ言われなくても、
妻の方はちゃんと見ていた。
夫の話が全く耳に入らないほど、和哉をうっとりと見つめていた。

彼の姿に、叶わなかった初恋の人を重ねていた。

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