昼下がりの情事(よしなしごと)

その離婚原因である不貞行為を(おこな)った和哉が先刻(さっき)から美咲の隙をついて、彼女の額や頬や顳顬(こめかみ)などに、何気ない調子で軽くキスしている。

もちろん、公衆の面前で、だ。

「……和哉、おまえ、そんなキャラだったっけ?」

佳祐は、高校時代からの親友に訊いた。

「あ、和哉は小学生の頃からこんな感じだから……」

代わりに美咲が呆れた声で答えた。
彼女は人前ではやめてほしそうな口ぶりだった。

和哉と美咲は同じ小学校に通っていた。

美咲によると、放課後はもちろんのこと、先生のいない自習ともなれば、たとえ授業中であっても和哉がいつの間にか隣の席に陣取り、隙をついては彼女にキスしていたらしい。

……おまえら、どんな小学生やねん。

東京で生まれ育った佳祐が、関西で生まれ中学まで育った和哉が聞くと「寒イボが立つ」発音で、心の中でつぶやく。

「口にはしてないさ。ガマンしてるからな」

そんなことも知らず、和哉はいけしゃあしゃあと言った。

< 59 / 88 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop