昼下がりの情事(よしなしごと)

「なにもらったの?」

再度、香里が尋ねる。

「ティファニー・セッティング」

美咲が答えた。

「でも、一粒石の立て爪っていかにも『婚約指輪』って感じでほとんどつける機会なかったなぁ。
……家を出るときに置いてきたけど」

確かに香里の婚約指輪なら、婚約指輪であってもデザイン性があるから、却ってファッションリング感覚でいろんな場所にして行きやすい。

と、そのとき。

香里の眉間にシワが寄った。

どうせ、和哉には指輪のことなんてわからないから、自分にアドバイスを求めてくるだろうと思って、どのブランドが美咲にいいか考えていたのだ。

そして、美咲の極端に華奢な指に合うブランドは、ちょっとティファニーしか考えられないのだ。

……二度目も同じブランドはまずいよね?

しかし、美咲は言った。

「あたし、結婚指輪だけでいいよ。婚約指輪はもういらない」

彼女はそう言って、豆乳入りの抹茶ラテをまるで悟りの境地のような風情で飲んだ。

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