昼下がりの情事(よしなしごと)

店員が「バレリーナ」と名のついた結婚指輪をいくつか持ってきた。 バレエが趣味の美咲にぴったりなネーミングだ。

美咲がカーブしたタイプをつけてみたい、と言った。

まずは一番プレーンなタイプのものを試着。

ものすごく指の細い美咲では、その店舗にあった一番小さなサイズでもぐるぐる回ったが、指輪の幅が細めなため、華奢な美咲の指にも違和感なく似合っていた。

細長い美咲の指がますます細く長く見えた。


「……これでいいや」

美咲は夢見る少女のような風貌を裏切って、男前にも即決しようとする。

……おい、美咲、店に入って何分だ?
一生モノだぞ? 店員も唖然としてるぞ?

「美咲、ダイヤはついてなくていいのか?香里ちゃんのはずらーっと一周ついてたぞ?」

和哉が(たま)らず口を出す。

「フルエタニティはサイズ直しができないから、不便なんだよ」

「それでしたら、こちらのようなハーフエタニティもございますよ」

店員が半周だけダイヤモンドのあるタイプを見せた。

美咲がそれをつけてみる。

さすがに、こちらの方が豪華で見栄えがいい。

「ダイヤモンドがあるところはアームに傷がつきにくくていいんですよ。結婚指輪は毎日つけるものですから、傷が結構つくんですよ」

店員が説明する。

美咲が上目遣いで、いい?と和哉に問うた。

……美咲、かわいすぎるぞっ!

もちろん、和哉は肯いた。

美咲はうれしそうに微笑んだ。
やっぱり、プレーンなのを選ぼうとしていたのは、遠慮していたからだ。

和哉は香里からのもう一つのコマンドを実行した。

「……婚約指輪も見せてください。
もちろん『バレリーナ』で」

< 76 / 88 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop