ある夜のできごと

「そろそろ子供ほしいね。」

「そうだね。」

あの日は、そう言って始まった。初めてなんの隔たりもなくつながることに高揚してか、
あの日の和香は
色っぽくて艶っぽくてとてもきれいだった……

仕事で忙しい日が続いていたそんなある日、
和香がはにかんだような笑顔で
「妊娠したみたい。」
嬉しいのと照れ臭いのとなんとなく恥ずかしいのとで大笑いしてしまった。
「なんで笑うの?!」
和香には怒られたけど、胸がいっぱいでなんにも言えなかった。

和香のつわりはひどく、病休をもらった。
「つわりだもん。仕方ないよ。」
和香は笑って言ったけど、
どんどん痩せていく和香が心配だった。

つわりが収まった頃、安産祈願にお参り行った。久しぶりに手をつないだ。近い将来、この間にもう1人いると思うとうれしかった。

和香のお腹も大きくなった。
「あっ。動いた‼」
和香がうれしそうに言う。
彼女のお腹にそっと手をあてた。
ポコッと動く感触が愛しい。

初めて、結愛を抱いたとき、
自分の子なんだっていう実感よりも、
不思議な気分で仕方がなかった。
そして、この子を守っていくんだっていう使命感を強く感じた。
これから、3人で幸せな日々が送れるんだ。
たった、数日。でも、退院の日が待ち遠しかった・・・・。

でも、理想と現実は違ってた。
泣きわめき、手のかかる結愛につきっきりの和香。
睡眠不足で家事もままならず、忙殺されていく日々。
家に帰っても、散らかった部屋にたまった食器。
仕方ないとはわかっていても、和香に対し苛立ちが募る。
大変なのはわかる。
でも、1日中家にいるなら、もう少しちゃんとできるだろう。
そう思わずにはいられなかった……
< 5 / 8 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop