意地悪な彼ととろ甘オフィス


『よーし! 可愛い!』

須永先輩は会社の更衣室で私の髪をいじり、その出来栄えに満足したように言った。

肩までのストレートの髪をアレンジしたことは、今まで一度もない。
基本、自分のことに関しては面倒くさがりだから、メイクも最低限しかしない。

そんな私に前々から『ベースは可愛いんだから!』と口をすっぱくして言ってくれていた須永先輩にとって、今回の飲み会は絶好の機会だったんだろう。

仕事を終え戻った更衣室で、だいぶいいようにいじられた気がしながらも、最後、確認のために鏡を見て驚いた。

髪はハーフアップされ、可愛い蝶々の髪留めで留められているし、二重瞼には普段使わないゴールド系のアイシャドウがほどこされ、アイラインもしっかり引かれていた。

まつ毛に乗せられたマスカラは瞬きすると少し違和感があるけれど、見た目的には〝けばい〟だとか〝派手〟だとかいうことはない。

頬にはオレンジとピンクの間くらいの色が薄く乗っていて、唇も潤っていた。

あの短時間でよくここまで……と感心したのと同時に、先輩には申し訳ないけれど、これを成瀬さんに見られるのか、と気まずさを覚えてしまった。

まぁどうせ気になんてしないだろうと思っていた通り、私を一瞥した成瀬さんは興味なさそうに目を逸らしただけだったけれど。

そういう……なにげない態度にいちいち傷つく胸は、最近マゾなんじゃないかと思ってきている。
散々傷つけられてきたのにまだ傷つけるのかと……まだ、嫌いになれないのか、と。

「日向さん、グラス空いてるね。頼もうか?」

隣に座った男性が話しかけてくる。

製造課の山下さんは、馴染みやすい雰囲気を持つ。
人当たりが柔らかいし女性の扱いにも慣れているように感じるからどうしてかな、と思っていたら、お姉さんと妹さんがいると苦笑いで教えられ、なるほどと納得がいった。

『こき使われっぱなしだよ。俺なんかもうほとんどパシリ状態』

ため息交じりの笑みとともにこぼされた言葉はどこか温かく、いいひとなんだろうなって伝わってくるようだった。

< 4 / 58 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop