ライアーピース



その日から、陸は毎日のように
違う女の人を連れては、
大学を後にするようになった。


講義中、私といる時の陸は
いつも通りでほっとするんだけど、
女の人が絡むと少し陸の表情が固くなる。


まさしく“誰でもいい”、
という風に、誘われてはOKする。


そんな陸を見るのが、苦しかった。


“誰でもいい”の中に入ってもいい。
だから陸に触れたい。


友達じゃ、距離がありすぎるもん。


欲張りにならないと決めていたのに、
どうしても欲張りになってしまう。


どうしていいかわからない私は、
「じゃ、また明日」と言って
大学を後にする陸の背中を見つめることしかできなかった。


私がふっとため息をついて見送ると、
プップー、とクラクションの音がした。


顔を上げると、
目の前にはスーツ姿の歩夢がいた。


「歩夢!どうしたの?」


「若葉、お疲れ。ちょっと
 仕事が早く終わったからさ、迎えに来た」


「ありがとう。でもなんで?」


「本当は毎日送り迎えしてやりたいくらい、
 若葉を心配してんだよ」


「あ、ありがとう・・・」


あははっと笑うと、
歩夢は素早く助手席のドアを開けた。


「さ、乗って」


「うん」


車の中に乗ると、
歩夢の香水の香りがした。


この匂いだけは、
高校の頃と変わらない。


その香りは安心するような、
心が温かくなるくらい、いい匂いがした。


「ねえ、歩夢。歩夢の
 香水ってどこで買ってるの?」


「香水?ああ、町でおしゃれな
 香水専門店を見つけたんだ。
 それからはもうずっとお気に入りの香水だよ」


「へえ」


「若葉にも買ってやるよ」


「えっ?いいの?」


「せっかく仕事も早く終わったし、
 ちょうどいいから行こうか」


「うん!」


歩夢は笑って私の頭を撫でると、
アクセルを踏んだ。



< 127 / 231 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop